雑感コラム 戻り梅雨 (2022.07.20)
戻り梅雨とは、梅雨が明けた後に再び梅雨のような状態に戻ることを言うのだそうだが、まさに戻り梅雨となっている。今年の梅雨は一番短い梅雨であるとか、これまでで最速の梅雨明けとなった、とか言われていたのが、ここにきて梅雨明け宣言そのものが怪しくなってきている。
今から考えれば梅雨明け宣言は早かったのではないか、気象庁の勇み足ではなかったかということになるのだが、これも結果論だろう。もはや、梅雨はおろか大雨や台風など、いろいろな気象用語の定義が覆されて、異常気象の中にいるということは誰もが理解できる。多少の定義のずれなどは我慢できるようになっているのかもしれない。
いずれにせよ、ここにきて雨が続いている。しかも、時折り暑い日になったり、涼しい日になったり、急な変化も目まぐるしい。しかも、急な豪雨に見舞われることもあるし、ひょうの固まりが叩きつけることもある。他にも雷や突風と、あらためて書き並べてみても、ここ数週間程の間に次々と襲って来る変化は、やはり異常としか言いようがないのかもしれない。
とはいえ、このように雨模様のすっきりしない天気のことを戻り梅雨というのは間違いないことだろう。戻り梅雨は、送り梅雨とも言うようで、あまり聞き馴染のない言葉ではあるのだが、俳句の世界では季語としてもつかわれている。そういう意味では言葉の響きはいい。
雨の日が続くのは梅雨明けの時期が間違っていたからだ、と言われるよりは、この雨は、戻り梅雨のようだ、とか、送り梅雨のようだ、と言われたほうが、何となく説得力がある。
芭蕉虚子波郷全集戻り梅雨  山田みづえ
鐘撞いて僧が傘さす送り梅雨 森澄雄
塩浜の夕べ明りや送り梅雨  岡本圭岳
梅雨にまつわる俳句の季語はいくつかある。それだけ春から夏と、季節の変わり目の雨の時期というのは、私達に大きな意味を持って捉えられてきたのだろう。
主なものを掲げてみても、梅雨入り、入梅、梅雨空、梅雨明け、走り梅雨、という語があり、さらには、梅雨の月、梅雨の星、そして、梅雨雷、梅雨晴、というのもある。いずれもが、梅雨という長い時期に垣間見せるそれぞれの梅雨の姿である。
そもそも梅雨というのは、春から夏への季節の変わり目に、日本や中国、東アジアから東南アジアにかけてみられる長雨や曇天の気象のことである。
梅雨前線による長雨の時期である。湿度が多く高温な気候は、過ごし難い環境でもある。しかし、この雨の時期があるために稲作、農耕文化が起きたわけで、その意味では重要な時期とも言えるのである。
梅雨というのは東アジア、日本だけでなく世界にもあるのかと思っていたら、そうではないようだ。梅雨は、東アジアだけの気候で、他の国にはないのである。他の国では、雨季という時期が存在する。それも東南アジアやオーストラリア、アフリカ、南米などに雨季がある。
ヨーロッパには、気流の影響で梅雨や雨季もないようだ。しかし、特定の時期に雨が多く降るということはなくても、年間通して曇りや小雨の降る日は多い。だから、ヨーロッパは住みやすいのかといえば、すっきりしない天候の日も多く、それほど過ごしやすいというわけでもないようだ。
そして、現在、ヨーロッパでは、40度を超す暑さに襲われている。ポルトガルとかスペイン、フランス、イギリスなどがその被害に遭っているし、その暑さのせいで大規模な森林火災も発生している。梅雨の時期の高温多湿はないのだが、それなりに問題も起きているのである。
いずれにせよ、これも異常気象である。雨の被害に襲われている国、暑さと熱波、火事に襲われている国。それぞれが、何らかの異常の収まるのをひたすら待っている。自然界の異常の前では、人は待つしかないのである。
戻り梅雨である。ずっと降り続く雨の中で雨の音を聞いている。少し小降りになってきた。雨も止みそうな気がしてきた。
雨もいつかは止むだろう、早く止むように。火もいつかは消えるだろう、早く消えるように。当たり前のことだが、そんなことを思っていた。
黒木美喜